現場通信 FILE 08
日本のトンネル工事を変える、PCL工法専用機”スピンアーム”

工務部 工事課 課長

八木 恒司KOJI YAGI

スピンアームは、より少ない時間と労力でトンネル工事を行う「PCL(プレキャストトンネルライニング)工法」の専用機です。ただでさえ効率の良いPCL工法は、スピンアームを使うことでさらに効率的に行えます。

スピンアームは大きなコンクリート板である「PCL版」を直取りし、そのまま運搬、施工箇所に架設できる機械です。トンネル工事を圧倒的に効率化するこの専用機を単独保有しているのは、全国でもなんと日本サミコンのみ。今回はスピンアームの開発経緯や優れた点を、工務部の八木さんに伺いました。

日本サミコンにしかない、PCL工法の専用機

――スピンアームを扱えるのは日本サミコンのみと伺いましたが、自社開発したものなのですか?

自社開発したものではありませんが、他社で購入したり、簡単に開発したりできるようなものでもありません。開発者は弊社取引先の社長で、社長には初号機から3号機までを製作してもらいました。

――そうなのですね。ちなみに、今は何号機まであるのですか?

今はまだ4号機までしかありません。それに、実際に稼動できるのは2号機と3号機だけです。初号機は3号機の登場で役目を終えて、今は稼動していません。

――ということは、現在稼動しているものはすべて、その社長様が制作されたという…?

そうなのです。その社長は、何と言うか職人気質な方でして…(笑)。スピンアームの設計図は社長の頭の中だけにあったのですね。だから、社長の亡くなられた今となっては、設計図が手に入らないのです。

――では、4号機はどのようにして?

信頼できる取引先に2号機を調べてもらいながら、製作してもらっています。分解して仕組みを調べて、直して…、いわば手探りで4号機を作っています。

効率性と安全性を一挙に高める

――スピンアームと従来工法を比べると、どのような違いを感じますか?

スピンアームを使った工事は「効率的」と弊社からもよく発信していますし、業界の中でも知られつつあります。しかし私は、その「安全性」を強調したいですね。

――「安全性」、ですか?

そうです。従来の工法ではトラックでPCL版をトンネルの入り口まで運び、フォークリフトに乗せてから、施工箇所まで移動します。しかしPCL版を直取りし、そのまま架設できるスピンアームなら、施工箇所までトラックでPCL版を運び入れられます。

――従来工法で同じことはできないのですか?

従来工法だと、トンネル内でPCL版の向きを変えられないのです。施工する向きのままでは、トラックにPCL版を積めません。だからトンネル入り口でPCL版の向きを変え、フォークリフトに乗せ、運搬する必要がありました。しかしアーム部分が回転するスピンアームなら、PCL版をつかんだ状態で、その向きを変えられます。

――それが、なぜ安全性につながるのでしょうか?

PCL版の移動距離や、作業工数が減るからです。PCL版をトラックからフォークリフトに移動させたり、フォークリフトで運んだPCL版を大人数で架設したりする必要は、スピンアームにはありません。だからこそ工事の効率も上がるのですが、同時に安全性も確保できるのです。

――なるほど、効率も良くて安心して施工ができると…。工事を発注する方は効率面の、現場の方は安全面の恩恵があるのですね。

その通りです。私たちは安全確認には特に気をつけていますが、完ぺきに安全な現場などありませんから…。だからこそこのようなテクノロジーは、今後も積極的に導入していきたいです。それに、何といっても他にはない専用機ですから、他ではできない体験ができます。

編集後記

日本サミコンではスピンアーム以外にも、効率化や安全確保につながるさまざまな工法を開発してきました。改良・改善が間に合っていない、危険な道路やトンネルが少しでも減るよう、これからも技術開発に尽力していきます。

文・現場通信編集部