現場通信 FILE 13
雪崩から道路を守るスノーシェッド工事に、女性技術者が挑む。

日本サミコン株式会社 技術部

本多 美由貴MIYUKI HONDA

株式会社葵建設工業 鉄筋工

龍口 亜季実AKIMI TATSUNOKUCHI

地図上で途切れていた通行不能の20キロメートルがつながろうとしています。それは、1986年以来40年をかけて進められてきた、福島県只見町と新潟県三条市をつなぐ国道289号線の新道建設工事です。本多さんはその最後の地点にある5号スノーシェッドの3D設計に関わりました。

前年に造られた基礎部分にコンクリート製の覆い、シェッドを架ける工事は高い技術力が求められるため、信頼できる施工会社とタッグを組んで行います。今回は、鉄筋工として龍口さんが参加しました。県境の現場で力を発揮するふたりの女性技術者、本多さんと龍口さんにとっての「建設という仕事」について伺いました。

スノーシェッドを3D設計でカスタマイズ

――スノーシェッド上部工工事とはどういう工事ですか?

スノーシェッドとは積雪や雪崩から道路を守る屋根のような構造物です。今回の工事では、トンネルとトンネルの間の道路約30メートルについて、山側のコンクリート壁と谷側のコンクリート柱の上にプレキャストのシェッドを設置します。このエリアは積雪量が多いので、道路や橋梁を守るためにスノーシェッドが必須なんです。

――その設計を本多さんが行ったのですか?

ドローンでの撮影画像から得た点群データをCAD化して、シェッド製品の図面作図と構造計算を行いました。必要なデータを抽出して地形の座標と合わせた上で、製品寸法の決定や干渉のチェックをするのですが、作業自体はPCでできることなので、こうして現場に来て初めてスケール感を実感します。

――工事が難しい箇所だと伺いました。

この現場は、すでに完成したふたつのスノーシェッドの間に残された構造物なんです。そこで、左右からシェッドの上部部分をはめ込んでいく中埋架設方式を採用しているのですが、寸法が正確でないとピタリと収まらない、でも、パーツはプレキャストなので現場でサイズ変更ができない。だから、施工前に3Dで配置検討ができるのは大きなメリットだと思います。

鉄筋工としてスノーシェッド架設に挑む

――龍口さんは鉄筋工事の担当ですね。

当社からはリーダーと大工、鳶、鉄筋工の4人が9月後半からこの現場に参加して、私は鉄筋工として、コンクリート構造物の骨組みに当たる鉄筋の組み立てを担当しています。この現場では組み立ての前に台直しや鉄筋起こしなどの作業もありました。

――何か問題が?

ここでは基礎工事が前年に行われたのですが、数カ月にわたる積雪でコンクリート部分から出ている鉄筋が曲がったりずれたりしてしまったんです。今回、施工を続けるには、それを起こしたり位置を修正したりする必要がありました。ほぼ手作業なので、時間と力が必要でした(笑)。

地図に載る、大きな仕事に関わりたい

――そもそも建設の仕事を目指したきっかけは?

(本多さん)
理系の知識が活かせると思ったことが大きいですが、学生時時代には森林などでのフィールドワークが多かったので、そのときに見たダムや橋梁に興味があったことも志望につながりました。

(龍口さん)
ダムや橋梁など地図に載るような仕事ができるのは、建設業の一番の魅力ですね。私の場合、前職は介護福祉士だったのですが、夜勤が心身にこたえて転職を考えました。希望は、昼に働くことと頑張ったことが形になること。そういう時に鉄筋工はどうかと知人に進められ、希望にぴったりだと思い、入社しました。

――建設の業界では女性はまだ少数派ですか?

(龍口さん)
いろいろな現場に行きますが、施工管理には女性は増えていますし、人数は少なくても現場事務所やトイレなどは女性対応が進んでいて、とくに困るようなことはありません。逆に現場の人たちに「よくこの業界に入ってくれたね」とか「頑張って」と声をかけてもらうことが多く、ウエルカムな雰囲気です。

――今後の目標を教えてください。

(龍口さん)
建設の仕事は女性には大変そうだという先入観もなく、私は楽観的にこの仕事に就きました。ある程度の体力は必要ですが、仕事は一人ではなくチームで協力して進めるので、これまで「できなかった」ことはありませんでした。これからもっと経験を積んで守備範囲を広げ、将来的には鉄筋施工技能士資格を取得したいと考えています。

(本多さん)
3D設計をすることと並行して、今、そのマニュアル化も進めています。社内で情報を共有しながら精度の高い設計ができる体制を作って建設DXに貢献していきたいと思います。また、防災製品のオーダーメイドや新製品開発に関わり、いつかこれまでになかったような「新しいもの」を創り出していきたいです。

編集後記

ドボジョ、リケジョと女性技術者を特別視していたのはすでに過去の話のようです。ふたりの女性技術者は気負うことも構えることもなく、とても自然に現場で自分の役割を果たしていました。多くの力が集結した工事も終盤、山間の国道が開通の日を迎えようとしています。