現場通信 FILE 10
スノーシェルターで歴史的な難所を安全な道路に変えた
内山 賢二KENJI UCHIYAMA
実際には約八里(32㎞)なのに10倍の「八十里」と呼ばれたのは、その道があまりに急峻で体力を奪われてしまうから。さらに冬期は雪に閉ざされて人を拒絶する、歴史的な難所でした。
その八十里越道路は、正確にいえば福島県只見町と新潟県三条市を結ぶ国道289号の一部。今回、内山さんが現場代理人を務めた工事の現場です。トンネル×橋梁×スノーシェルターで、車両が安全に通行できる道路を造る――その中でスノーシェルターが果たす役割について聞きました。
道路と橋をおおって雪から守る
――どのような工事だったのですか?
ここは新潟と会津を結ぶ、物流はもちろん観光や医療にとっても重要な道路なのですが、土砂災害や大雪で八十里越にあたる部分が長く通行不能になっていました。山にトンネルを通し、谷に橋梁を掛けて、安全に効率よく通行できる道路を造ることになり、当社はトンネルの間と橋梁上にスノーシェルターを設置する工事を受注しました。
――むき出しの部分を覆うということですね。
とにかく山深いエリアなので、積雪時にも除雪機がすぐに来られないし、近くに排雪場所もない。それなら、道路に屋根を架けて、最初から積もらないようにすればいい、という発想です。今回は、2本のトンネルの間と長い橋梁の上にスノーシェルターを施工しました。
13tのパーツを組み合わせていく
――アーチ型の屋根はどうやって作っていくのでしょう。
現場でプレキャストのパーツを二つ拝み合わせてアーチ型にし、それをつなげてかまぼこ型の屋根を造っていきます。パーツ1点は13トンほどの重量物なので、大型クレーンやフォークリフトで施工します。今回造ったスノーシェルターは総延長90m、80点のパーツを使いました。
――パーツといえど巨大ですね。
ええ、これだけ重いと支える基礎もそれなりに頑丈にしないと。だから、基礎が打てない場所や橋梁上に架設する場合は、コンクリート製ではなく、鋼製を採用することもあります。
――スノーシェルターにはいろいろなバリエーションがあるんですね。
基本となる形があって、それを現場や用途に合わせてカスタマイズするんです。大掛かりなことから細かなことまで柔軟に対応できるのは、自社で製造工場を持っているからでしょうね。
工事では時間との闘いが待っていた
――この工事の課題は何でしたか?
現場は山深くアクセスは大変ですし、現場には資材などをストックできる十分なヤードも確保できませんでした。降雪・積雪期間が長く、関連工事とのかねあいで施工できるのは7月から11月の間のみ。課題は山積みでした。
――あえて一つをあげるなら?
時間的な制約でしょうか。2026年の開通に向けて、2本のトンネル・橋梁・スノーシェルター・道路舗装・各種設備など多くの工事を終わらせなければない。遅れると、次に予定されている工事を妨げてしまうので、工程管理は特に綿密に行いました。
――それを乗り越えられたのは?
スノーシェルター施工の豊富な経験を持つ協力会社のみなさんのおかげです!5年後に開通したらすぐにここを通って会津まで行きます。その日が今から楽しみです。
編集後記
道路に屋根を架け、雪はもちろん荒天からドライバーを守るスノーシェルター。安全の確保はもちろん、人や物資の交流を促して、地域の活性化にも貢献しています。戊辰戦争で河合継之助が退却した難路、八十里越が生まれ変わる日はもうすぐです。
文・現場通信編集部
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